最終更新日: 2026年3月4日 by it-lawyer

こんにちは、IT・Web系・SaaS企業のための弁護士、宮岡遼です。
今回は、SaaS・クラウドサービスの販売代理店契約で混乱している人へ向けて記事を書きたいと思います。
いわゆる、以下の図の問題です。

この問題については、過去に以下の記事で解説しましたが、現場での理解が進んでいないようです。
そこで、もっとわかりやすく解説したものを届けられないか格闘して公開することとしました。
本記事は、AIでインターネット上の情報から生成したものではなく、IT・Web系・SaaS企業の顧問弁護士が日々の現場で経験した事実に基づき、インターネット上や書籍にない情報を発信しようとするものです。
この記事を最後まで読んでいただくことで、SaaS・クラウドサービスの販売代理店契約の現場の問題、契約パターンによる実務上の処理方法について知ることができます。
それでは、説明していきます。
何が現場に混乱を生んでいるか
言葉の氾濫
現場には、例えばこんな言葉が飛び交っています。
現場で聞く言葉
「販売店」「代理店」「販売代理店」「販売パートナー」「顧客紹介」「営業の外注」「サブライセンス」「仲介店」「直接利用許諾」「再利用許諾」「売り切り型」・・・etc
言葉の氾濫が起きているせいで、現場の実務が混乱しています。
重要なことは、①サービス提供者、②中間業者、③エンドユーザーの3者しかいないとシンプルに考えることです。

登場する3者の関係性がよくわからない
サービスを運営・提供者、中間業者、サービスを使う人が登場します。
それぞれ、以下のように呼ばれることがあります。
サービス運営・提供者
ベンダー、メーカー
中間業者
販売代理店、販売店、代理店、販売パートナー、パートナー、仲介店
サービスを使う人
エンドユーザー、エンドユーザ、エンド、顧客
ここでは、①サービス提供者、②中間業者、③エンドユーザとしておきましょう。

なぜ中間業者がいるのか?
営業上のリソースの補充
サービス提供者は営業上のリソースが潤沢とは限りません。
そこを中間業者に補ってもらうのです。
営業リソースの調整弁
営業社員を雇用契約のもと雇用することは、サービス提供者にとって負担が大きすぎる場合があります。
中間業者との業務委託契約であれば、労働法に縛られることはなく、契約期間も数か月から設定でき、柔軟な設計が可能です。
既存の販売網の利用
間に入る業者が既に有数の企業とパイプを持っていることがあります。
サービス提供者としてはそのパイプを利用して販売数を増やしたいですし、中間業者としてはそのパイプを事業資産として販売手数料をもらうことが事業機会となります。
3者の関係性は?
この2パターンしかありません。


①サービス提供者と③エンドユーザーが直接契約を結んでいるものを「直接契約型」、直接契約を結んでいないものを「サブライセンス型」とでも読んでおきましょう。
直接契約型を「直接使用許諾型」、サブライセンス型を「再使用許諾型」と呼ぶこともあります。
名前はなんでもいいです。
名前は重要か?
重要ではありません。
重要なのは、「誰が誰との間でどんな権利義務があるのか?」について3者間で整理しておくことです。
これをしておけば、上司、役員、社長に端的に説明できます。
それを整理するためには直接契約型なのかサブライセンス型なのかを整理しておけばいいのです。
「ベンダー」「メーカー」「販売店」「代理店」「販売代理店」「販売パートナー」「仲介店」「営業店」「顧客」「クライアント」「エンド」などの言葉が出てきても慌てる必要はありません。
これが上記3者のどれに当たるかを位置付ければよいのです。
契約書名も気にしない
サービス提供者と中間業者との契約書の名前もいろいろ使われています。
「販売店契約書」「代理店契約書」「販売代理店契約書」「パートナー契約書」「営業代理店契約書」「仲介契約書」「顧客紹介契約書」「ライセンス契約書」・・・etc
これらのタイトルが出てきても慌てたり、気にする必要はありません。
これらは要は、①サービス提供者と②中間業者の間で販売手数料などについて合意した文書にすぎません。

契約書の名前によって契約書の内容を変えるという発想はいりません。
法務の世界では、契約書のネーミングは決定的な意味を持たない。と覚えておきましょう。
人間が業務を整理するためにつけたラベルにすぎないのです。
重要なのは、①サービス提供者と③エンドユーザーが直接契約をしているか否かだけです。
①サービス提供者と②中間業者との間の契約内容は、その後に考えることなのです。
この順番を間違うと、迷宮入りしてしまいますよ。
混乱した時は、ここに立ち帰る
登場人物は3人しかいない。
誰が誰にどんな権利を持ち義務負うのかを整理するだけ。
直接契約型かサブライセンス型かをまず特定する。
問題を広げない
生じる関係性の線は3本しかありません。
むやみに問題を広げないようにしましょう。
・サービス提供者と中間業者

・中間業者とエンドユーザ

・サービス提供者と中間業者

この問題はなぜややこしいのか?
サービス提供者とエンドユーザーが関わり続けるから
これが決定的な特徴なのです。
物品販売や知的財産のライセンス契約であれば、中間業者に卸せば終わりなので、中間業者との契約の問題に単純化できました。
しかし、SaaS・クラウドサービスは、サービス提供者が中間業者の先にいるエンドユーザーとサービスを通して継続的に関わり続けることになるのです。
なので、サービス提供者は中間業者に卸しただけでは、エンドユーザーとの関係性から逃れることはできません。
従来の販売代理店契約書が使えないから
物品販売の販売代理店契約書や知的財産のライセンス契約書が使えません。
サービス提供者が中間業者の先にいるエンドユーザーとサービスを通して継続的に関わり続けることを前提とした契約書の巻き方をしないといけません。
特にサブライセンス型では、サービス提供者が作成したサービス利用規約をいかにして中間業者とエンドユーザー間に適用するか?という実務的な問題が立ちはだかります(後で解説します)。
新しい問題だから
SaaS・クラウドサービスの契約問題は、SaaS・クラウドサービスが一気に普及してきたとともに現れた新しい問題であり、未だ経験値がある弁護士が少ないことが挙げられます。
残念ながらこれまでの契約の処理でどうにかしようとする現場も存在します。
そのような現場では、紛争化した場合に契約書の設計ミスによりそもそも交渉ができないという場面がこれからどんどん出てくるでしょう。
また、意思決定に関わる層が高齢化しており、SaaS・クラウドサービス特有の契約問題について理解を拒むという現場もありました。
この問題をシンプルに逃げる方法は?
サービス提供者とエンドユーザでの直接契約にすることです。

つまり、サブライセンス型を取らずに、直接契約型にするのです。
SaaS・クラウドサービスのシンプルな設計は直接契約です。
サービス提供者ではない中間業者がサービスの売り手となるのは本来的な形ではありません。
中間業者はサービスの開発・運用をしていないので、サービスの問合せに対応できる範囲には限界があることからすれば理解できるでしょう。
シンプルに逃げれない場合は?
では、直接契約型を取れない場合はどうすればいいでしょうか?
実は、現場には直接契約型を取れない事情があることが少なくないのです。
サブライセンス型を求める現場事情
エンドユーザーが求める
エンドユーザーが、社内の決済を取るために、信用のある会社を挟んで欲しいと言う場合があります。
サービス提供者が未だ業界での信頼・知名度を勝ち取れていない場合に、サービス提供者との直接契約では社内決済が取れないので、販売店を噛ませてください。と言ってくるのです。
自社扱いの商品として提案したい
中間業者が、エンドユーザーに対して該当サービスを自社扱いの商品として提案したいというニーズがあることがあります。
例えば、顧客に合わせたITサービスをいくつか抱き合わせで提案・販売したい中間業者としては、自社取扱いのサービスと位置付ける方が、エンドユーザーに対して自社の解決力をアピールでき販促につながることがあります。
また、SaaSのプラットフォームを構想している企業が、プラットフォーム内で追加できるサービスとして該当サービスを提案したい場合があります。
この場合に直接契約型を取ってしますと、自社プラットフォーム内のサービスという一体感が失われてしまう可能性があるので、一括で自社がエンドユーザーへの売り手になりたいというニーズがあります。
キャッシュを早く確保したい
サービス提供者が、エンドユーザーとの直接契約までだとサイトが長いので、中間業者にまずは売り切ってキャッシュを確保したいという事業がある場合があります。
サブライセンス型にすれば、エンドユーザーが契約する前に中間業者に売って入金を受けることができるので可能になります。
売上を早く計上したい
サービス提供者が、ある事業年度内に売上を上げたいなどの理由で、中間業者にまずは売り切りたいという場合があります。
サブライセンス型にすれば、エンドユーザーが契約する前に中間業者に売れるので可能になります。
管理する契約を1本だけにしたい
サービス提供者が、管理する契約書を1本だけにしたいという場合があります。
つまり、直接契約型にすると、①中間業者との契約書②エンドユーザーとの契約書が発生する一方で、サブライセンス型にすると①中間業者との契約書の1本だけになります。
しかし、サブライセンス型にしたとて、サービス提供をエンドユーザーにしている以上、エンドユーザーとの関係の管理が不要になるわけではありません。
サービス提供者が運用するサービスの運用・アップデートにエンドユーザーが直接影響を受け、サービス提供者が作成したサービス利用規約を流用することが通常であり、エンドユーザーからのサービスの問合せに回答できるのはサービス提供者だけということなどから、サービス提供者にはエンドユーザーに対しての説明責任・対応責任があります。
この点は、中間業者との契約書で対応範囲・責任範囲を明確にしておく必要があります(後で解説します)。
サブライセンス型にするしかない
直接契約型を取れない、という場合は腹を決めてサブライセンス型にするしかありません。

〜続く〜
続編では、サブライセンス型の契約書を作成・運用する際の方法について書きます。


