最終更新日: 2025年8月7日 by it-lawyer

こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。
今回は、IT企業がマストで用意しなければならない4点の必須契約書について説明したいと思います。
たくさんのIT企業を見てきた経験からすれば、この必須契約書が準備・整理できている企業は売上を伸ばしていきます。
逆に、この必須契約書を準備・整理できていない企業は、無駄な紛争を起こし、時間と工数を取られ、いまいち事業にブーストがかからない印象があります。
この印象は私が顧問弁護士をする中でいよいよ確信を強めています。しかし、契約書の作り込みや早期の対応でリスクを軽減することが可能になります。
この記事を最後まで読んでいただくことで、IT企業がマストの契約書は一体なんなのか、その内容とポイント、弁護士に依頼するときの相場費用、弁護士を選ぶ際のポイントについて知ることができます。
それでは、説明していきます。
マスト契約書4点とは
ズバリ、この4点です。
業務委託契約書
秘密保持契約書(NDA)
販売パートナー契約書
覚書
業務委託契約書
案件・仕事があれば常に必要!
業務委託書は、案件、仕事があるところには常に必要です。
以前は、請負なら請負契約書、委任なら委任契約書というように分けていることもありましたが、現在は委任・請負問わずに業務委託契約書を作成することが多いです。
コンサルティング業務委託契約、集客代行業務委託契約書、アドバイザリー契約書、●●に関する業務委託契約書、●●サービス業務委託契約書、●●サポート業務委託契約書、●●制作業務委託契約書など、契約書のタイトルにバリエーションがあることもあります。
フリーランス保護法、下請法、労働者派遣法、職業安定法からして適法なものを用意しておく必要があります。
業務委託契約書のひな型(テンプレート)はなんとしても用意しておきましょう。
もめがちなところ
- 委託料の支払がなかった場合に満額請求できるか
- 契約不履行についてどちらに過失があるのか
- この過失は重大な過失なのか軽微な過失なのか
- 途中解約をできるか
- 途中解約の場合の委託料はどうなるのか
- 逆に損害賠償としてお金を払う必要があるのか
- 実際にかかった想定外の諸経費についてどちらが負担するのか
- 損害賠償請求を相手に請求できるか
- 実際の稼働が想定と違う場合に委託料の支払を拒否できるか
- 契約書に書いていないやり取りをしているがそれはどこまで有効なのか
など、あらゆるバリエーションでもめるタネがあります。
ポイント
ここでは、委託者、受託者の立場から1点ずつポイントをお伝えします。
委託者であれば解約についてしっかり定めておきましょう。
解除について定めているものの解約については定めていない契約書が多いです。
解除が使える条件はハードルが高いです。
IT企業法務の実際の現場では、実は、解除よりも解約の方がよく使いますし、論点になります。
受託者であれば、損害賠償の条項に注目してください。
賠償の条件となる過失の重さ、賠償項目、賠償額の上限額、時効に注目してください。
長期的な関係を見据える場合は、基本契約書・個別契約書スタイルにすると便利です。
この場合の個別契約書は、発注書型、申込書型、注文請書型、見積書兼申込書型など様々なバリエーションが実現可能です。
秘密保持契約書(NDA)
案件発生前から必要!
秘密保持契約書(NDA)は、案件・仕事が発生する前から必要なことがあります。
協業・提携が可能かどうかを検討するために、情報のやり取りをする場合に取り交わすことがありますよね。
他方で、案件・仕事が発生するとともに、秘密保持についての合意について作成することもあります。
秘密保持契約書(NDA)も案件・仕事があるところには必ずあると言っていいでしょう。
三者間で締結することも多い契約書といえます。
ポイント
全ての情報を機密とするのか、機密と明示されたものを機密とするのかによって、情報管理のコストがまるで違ってきます。
秘密保持義務は、秘密保持にかかる契約終了後1年〜5年間存続するとすることが一般的ですが、実際の現場では、これを意図的に、巧妙に、無期限としたり、逆に契約終了とともに終了させるとしていることもありますから注意しましょう。
実際の現場でよくあることなのですが、業務委託書に秘密保持の条項を定めておきながら、同じタイミングでこれとは別に「秘密保持に関する合意」なるものが取り交わされることがあります。
この場合、どちらの条項が適用されるかをめぐってもめてお互い無駄に疲弊することがあります。バッティングして同じことを定めるのはやめましょう。
秘密保持契約書(NDA)は発生頻度が高い一方で、業務提携の可能性を検討した結果、取引とならず売上が立たないこともあります。
そのため、秘密保持契約書(NDA)を取り交わすことが多い場合は、1件ごとに弁護士を探してリーガルチェックを依頼することは、コストが合わないことがあります。
お得なプランを提供してくれる弁護士を捕まえておいて、その顧問料の範囲内でやってもらうことが得策です。
秘密保持契約書(NDA)を掘り下げていますので、ご参照ください。
販売パートナー契約書
実は専門性が高い!
IT企業にとって一番必要なのは売上ですよね。
利益が一番重要という声も聞こえますが、まずは売上がないと何も始まりません。
売上を作るために重要なうちの1つが、販路の拡大、つまり販売パートナー、代理店、販売店です。
To Bをはじめ、その重要性は私がご説明するまでもないかと思います。
販売代理店契約書、顧客紹介契約書、販売店契約書、代理店契約書、直接使用許諾契約書、再使用許諾契約書、販売パートナー契約書などのタイトルがつけられることがありますが、内容は同じです。
実は、ITサービスの販売パートナー契約書は専門性が高い分野です。
代理店契約・販売店契約というものは昔からありました。
しかし、ITサービスという所有権ではとらえられない利用権・使用権の販売という特殊性があったり、販売パートナーは自らユーザーに接するもののITサービスの内容に詳しくないためサポートを保証できない特殊性があったりするのです。
ですので、ベンダーと販売パートナーの義務・責任内容というのは、最先端の知識・最新トレンドの理解が必須といえます。このような点に自信のある弁護士を探して依頼してみましょう。
もめがちなところ・ポイント
ユーザーからの利用料金の不払のリスクを誰が負うのか、ユーザーの利用料をどのような経路で受け取るか、販売パートナーに価格決定権があるか、窓口業務の義務はどちらにあるか、どこまでのサポートが販売パートナーに必要か、ユーザーの利用料金全額を「売上」として計上してよいか、など多岐にわたります。
独占禁止法違反、税法違反がシビアに問われるところであるので、注意が必要です。
IT企業の販売パートナー契約書については、2類型で理解することが必須です。こちらの記事で詳細に説明しています。
覚書
あらゆる合意に対応できるオールラウンダー!
実際の現場では、契約書の一部のこの点だけ変更したい、契約書の一部のこの点だけ追加したい、という場面があります。
この度に業務委託契約書や販売パートナー契約書を取り交わすというのは現実的ではありません。
そこで、覚書の出番です。
●●に関する覚書、合意書、●●に関する合意書、契約条件変更の覚書などさまざまなタイトルがつけられます。
シンプルにある合意について書面化するために利用される場合もあれば、業務委託契約書などの基本となる契約書があって、それに付随して取り交わされる場合があります。
その場合は必ず「●年●月●日付け●●●●契約書」(以下「原契約」という。)などとして関連性を明記します。
どのような覚書のパターンにも対応できるひな形(テンプレート)を1つ用意しておくと圧倒的に便利です。
もめがちなところ・ポイント
基本となる契約(原契約)のどこまでの規定が覚書の合意に適用されるのか、覚書に書いていないことはどうするのかという点をはじめ、実際の現場では、覚書自体の有効期間や裁判管轄をはじめとしてあらゆる点がもめるもととなります。
というのも、実際の現場では、有効期間、損害賠償や裁判管轄など基本的なことについて、油断して記載されないことがあるのです。
基本となる契約(原契約)に書いてあるから安心だろうというのはよくある錯覚で、覚書の内容自体が存在するか・有効かということが争われた場合には、基本となる契約(原契約)は無関係なので、別途定めておかないと意味がありません。
マスト4点契約書の弁護士費用の相場・目安

一般的な法律事務所
現在、弁護士費用は自由化されているため、マスト4点契約書のの弁護士費用は、弁護士事務所によってさまざまです。
目安としては、契約書の作成やリーガルチェック・レビューなどの業務については、弁護士1人の1時間あたりの稼働に対して最低2万円〜多くても10万円の金額を設定しているところが多いでしょう。
相場・目安としては以下のようになります。
業務委託契約書
1通5万円(税別)〜
秘密保持契約書(NDA)
1通3万円(税別)〜
販売パートナー契約書
1通7万円(税別)〜
覚書
1通5万円(税別)〜
スタートビズ法律事務所
業務委託契約書
秘密保持契約書(NDA)
販売パートナー契約書
覚書
1か月以内に5通以内であれば総額5万円(税別)で、法律相談し放題、24時間以内応答、定期的な最新法務レポートプレゼント、契約期間の縛りなしのプランをご用意しております。
1か月のみの契約も可能なので、総額5万円(税別)で全てのマスト契約書4点全てを用意することも可能です。
マスト4点契約書の弁護士の選び方のポイント
ポイント1:IT企業の契約書に知見がある弁護士を選ぶ
近年、法律分野や法律業務が多様化しており、弁護士の専門化も進んでいます。意味があって効果の高い契約書の作成やリーガルチェック・レビューを得るためには、IT企業の契約書業務に明るく実績も多い弁護士を選ぶことをおすすめします。
安いがクオリティは不明、という場合は結局高くつくこととなります。他の弁護士が作成したものを私の方で作り直しの依頼も少なくありません。
はじめからクオリティの高いところに頼みましょう。ただし、バカ高いところに頼む必要はありません。
ポイント2:アフターサポートがある弁護士を選ぶ
「納品して終わり」ではなく修正点について気軽に質問したり相談することが可能な弁護士を選ぶことをおすすめします。
修正した契約書を取引先に送ったところ、これについて質問があった際に答えられなければその点の修正は実現しないかもしれません。また、取引先から不信感を持たれるかもしれません。
これにあなたがしっかりと答える準備ができれば、取引先の信用は確保でき、次回の取引からは修正した内容であなたに有利な契約を取れ続けるでしょう。
ポイント3:スピード対応が可能な弁護士を選ぶ
契約にはタイミングというものがあります。タイミングを逃せば契約書の作成やリーガルチェック・レビューをしても意味がありません。
全て即日にというのは難しいでしょうが、ご依頼の際にはいつまでに納品してもらいたいが可能か、ということを確認してから依頼するようにしましょう。
ポイント4:誰が実際に業務をするのかを行うのか分かる法律事務所を選ぶ
弁護士が多い法律事務所では、新人弁護士の研修のためにご依頼の契約書の作成やリーガルチェック・レビュー案件が割り振られてしまう危険があります。
必ず、ご依頼する法律事務所に対して、誰が実際にあなたがご依頼した件の契約書の作成やリーガルチェック・レビューを行うのか確認するようにしましょう。
そして、担当の弁護士のプロフィールを確認し、不安であれば他の契約書の作成やリーガルチェック・レビューに長けた弁護士に担当してもらうように伝えましょう。
ポイント5:契約の現場感覚を持っている弁護士を選ぶ
取引先に対する交渉力の強さ、契約書の作成やリーガルチェック・レビューの目的(自分側に有利な内容にしたい、双方に中立的な内容の契約書にしたい、著しく当社側に不利な規定がないかだけ確認したい)などを踏まえないと、非現実的にあらゆるリスクを指摘するだけの契約書の作成やリーガルチェック・レビューになってしまいます。
これでは契約に至らず契約のチャンスを逃してしまうかもしれません。
現場で実際に役にたつ契約書の作成やリーガルチェック・レビューをしてもらうために、事前にオンラインミーティングなどで状況を説明できる弁護士に依頼することが良いでしょう。

この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士
出身地:京都府。出身大学:東京大学。
強みは「IT・スタートアップ 企業の法律問題、契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)」です。