最終更新日: 2023年12月2日 by it-lawyer
この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士 スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。 IT・スタートアップ企業の契約書・労務問題はお任せください。 |
こんにちは,IT企業のための弁護士,宮岡遼です。
今回は,契約書問題を放置する危険性について説明したいと思います。
「うちは今までそんな問題など起こったことがないから大丈夫」
「問題が起きたら相談するから大丈夫」
このようなことをいって、本当は必要なかったたくさんの損害賠償や業務負担を強いられて事業を縮小することになった企業をたくさん見てきました。
問題が起きてからでは時間とお金を大きく失います。
それでは、IT企業における契約書作成のメリットについて解説いたします。
目次
IT企業が契約書を放置する危険性について
契約書を作成しないという問題
適当な内容の契約書を作ってしまうという問題もありますが、その段階にも至らないのが契約書の作成自体をしないという問題です。
伸びる企業、安定して継続する企業は必ずここをおさえています。
契約書を作っていなかった場合、言った言わない問題になったときには、必ず言っていなかったことにされます。担当者が変わった場合、このことを言ったんだという主張はなんの意味も持ちません。
タダ働きとなってしまった事例
このような案件がありました。
「先生、システム開発案件を請け負って納品したのですが、気に入らないといって請負代金を全く払ってもらえません」
相手方は、「正式に仕事を頼んだ覚えはない。納品だと主張しているのは、単に売り込みのために完成予想図を持ってきたにすぎない。こちらはその提案を断った。こちらが代金を支払う義務など全くない。」と主張しているとのことでした。
「契約書を見せてもらえますか?」
「契約書はありません。でもメールやスラック、チャットワークでやり取りが残っているから大丈夫です。裁判で約束した内容を証明できます!」
本当でしょうか?
残念ながら、裁判所がメールやファックス、チャットの内容通りの約束内容があったと認めてくれる可能性は高くありません。
担当者間の断片的なやり取りについて、裁判所は次のように考えます。
「あくまでも担当者という個人同士の合意にすぎず、それのみでは企業という法人間の合意であるか定かではない。法人間の合意ならば、当然、契約書などの書面にその旨の記載が存在してしかるべきだからである。」
企業間の契約は、いくら担当者間でEメールやファックス、チャットなどのやり取りをしていても、それは交渉過程で担当者間が話した事柄にすぎないと判断されるのが通常です。
「いや、うちは社長も直接やり取りに参加しているから大丈夫でしょう?」
全く安心できません。
というのも、裁判官が裁判で使用する重要な推理法則というものがあります。
「契約書などの書面に記載していないのだから、約束内容にしていなかったのだろう」
「契約書などの書面にまでならなかったということは、最終的な約束内容にまではならなかったのだろう」
裁判官は、当事者の裁判段階の主張よりも、当時の書面などの客観的証拠を重視します。
公平・公正な判断をするためにはうなずけるところです。
裁判官は、当事者が約束をしたときにどのようなことを約束内容としようとしていたのかということを、まず書類などの客観的証拠から認定します。
契約書という証拠がない場合、お互いが自らに都合のよい主張をするだけですから、裁判官としては、契約書という正式な書面が無いのであれば、なんらかの最終的な約束を認めるのは難しい立場に立たされるのです。
今回の案件では、残っていたメールなどの証拠を確認してみましたが、委託する内容の納品物や金額について大まかに触れられてはいましたが、それが法人間の最終的な合意となったといえるかというと少し説得力が弱いものでした。
契約書を作成しないと上記のような案件がが普通に起こってしまいます。
IT企業が契約書を作成しないことで発生し得るトラブルとは
莫大な損害賠償請求
契約書を作成する際には、賠償する場合を限定したり、損害賠償額の上限規定を入れたりすることを検討しますが、契約書が無い場合には、損害賠償額が青天井になり、事業の存続さえ危ういものとなるリスクがあります。
著しく不利な交渉しかできない
例えば、契約書では裁判をする裁判所を定めるのが一般的ですが、これを定めない場合、民事訴訟法により事件の種類ごとに決められた裁判所で裁判をしなければなりません。
裁判をする場合にかなり遠方の裁判所を使うことになってしまう場合、コストが大きくなりますから、そもそも裁判をしてもいいという態度で交渉することができず、むしろ相手に足元をみられてしまうことになります。
明らかに自社が正しくても解決までに時間・コストがかかる
契約書があれば、裁判となっても比較的早期に勝訴判決を得たり、有利な和解をすることができます。
契約書がなければ、相手方の主張にいちいち付き合わなければならなくなり、解決までに時間がかかります。
また、このように解決までに時間が多くかかること自体を交渉材料とされ、契約書を作っていなかったこと以外には自社になんらの落ち度がなくても、不利な解決しかできないことがあります。
労働問題についてはなんらの防御もできない
雇用契約書など、労働者との間での契約書を作成していない場合、労働条件通知書などの周辺の書類を作成していないことがほとんです。
その場合、労働基準法違反があることになりますから、そのような状況では労働者や退職者との紛争では企業は防戦一方でなんらの交渉力も持ちません。
裁判になっても、実名が公表されるのは企業側だけですから、労働基準法違反の罰則リスク、リピュテーションリスクを負うのは企業側だけであり、回避できた多くの損失を被ることになります。
相手方作成の契約書をそのまま受け入れてしまう
契約書作成をすることが通常という考えではない事から、相手方から提出された契約書の雛形をよく検討・修正することなく、受け入れてしまうことが多くなります。
その場合には、揉め事になってはじめて、契約書に自己に不利益な規定ばかりであったと気づくことも多いのです。
IT企業が契約書を作成しておくと
業務コストが減る
想定外の損害賠償請求を受けたり、想定外の義務を負うことで業務負担を強いられることがなくなりますので、業務の生産性・コストは必ず向上します。
また、契約書作成においてリーガルチェックを受けることで自社の業務の法律・規制マターを常にチェックすることができ、地に足のついたビジネスの戦略を練ることができます。
紛争のコストが減る
そもそも、裁判になる可能性を減らすことができます。
契約書があれば、裁判となっても比較的早期に勝訴判決を得たり、有利な和解をすることができます。
契約書がなければ、相手方の主張にいちいち付き合わなければならなくなり、解決までに時間がかかり、それに伴いコストがかかります。
交渉力の強い企業にも反論しやすい
交渉力の強い企業に対しては、契約書があれば、そのとおりに扱わざるを得ないということで、反論ができます。
契約書が無い場合、反論自体ができなかったり、契約書などの書面なしに反論することで将来の取引が無くなることを恐れて反論自体ができないという事態も想定されます。
契約書があれば、相手方企業の担当者が社内に説明する武器を与えることになり、不当な条件や義務を押し付けられずに済みます。
スタートビズ法律事務所では、顧問契約の相談を無料でお受けしております。お気軽にご相談ください。
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