退職勧奨のポイントとは?IT法務に強い弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月2日 by it-lawyer

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スタートビズ法律事務所 代表弁護士

スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。

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こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。

今回は、退職勧奨のポイントについて説明したいと思います。

かつて、大手企業をはじめとして追い出し部屋で退職強要をしているとの報道がされたこともあり、退職勧奨は簡単ではないことはご存知かもしれませんね。

2013年以降、厚生労働省が追い出し部屋が実際にあるのか、退職勧奨の実施の状況などを実際に職員を派遣して直接聴き取り調査を行うなどして違法・不当な退職勧奨への啓発活動を行うなどしてきました。

出典:厚生労働省(退職強要の有無等に関する調査について)

退職勧奨のポイントをおさえていないと、退職自体が無効や取消しになったり、未払賃金や慰謝料の支払を余儀なくされたり、訴訟に持ち込まれて自社の名前のついた裁判例がインターネットに晒されることになります。

労働事件では、会社名が頭についた事件名となり、判例集や書物、インターネットに記録されることになりますので、企業のブランド毀損や企業価値・信用の低下により、採用活動にも大きな悪影響を及ぼす可能性があります。

私が実際に交渉や裁判で経験した知見や公表されている過去の裁判例の分析から判明した、最低限おさえておきたいポイントを解説していきたいと思います。

この記事を最後まで読んでいただくことで、退職勧奨で最低限おさえておきたい具体的なポイントや、退職勧奨の問題においての弁護士の選び方などを知ることができます。

それでは、説明していきます。

就業時間内に行うこと

退職勧奨は就業時間内に行ってください。

終業時刻以降にに居残りを命じて行ったり、早朝に呼び出したり、休日に呼び出して行うことは、対象者への圧力や負担の問題から、不当な心理的威迫を加えたものとして退職勧奨が違法・無効なものとなる可能性が高くなります。

個別に行うこと

退職勧奨は個別に行いましょう。

大勢の前でさらし者にすることはもちろん、他の者がいる場で行ったりすると、対象者の名誉感情を不当に害する方法であるとして、退職勧奨が違法・無効なものとなる可能性が高くなります。

1対2が望ましい

退職勧奨は、対象者1人に対し、面談者2人で行いましょう。

1対1となると、録音がされていない会話について後から「言った」「言わない」といった水かけ論になったり、挙動などによって不当な圧力を受けた等と主張された際、弁明ができないといった懸念があります。

他方で、3人以上で行うと、人数の差自体がプレッシャーとなった、取り囲まれるように退職勧奨をされたというような主張に対する反論のハードルが上がってしまいます。

そこで、面談者2人のうち、1人がメインに話をし、残りの1人は書記や立会人としての立場に徹するという形で行いましょう。

好き嫌いでやっているのではないことの証拠を残しておくこと

退職勧奨においては、なぜその労働者が対象となったのかということを明確にしておく必要があります。

裁判では、対象者の選定の合理性という判断基準があり、裁判官はその点の立証を企業側に求めます。

なんら非のない労働者を狙い撃ちして行ったり、恣意的な選別がなされていたりすると、対象者選定に合理性がなく、不当な退職勧奨と判断されてしまう可能性が高くなります。

少なくとも、「好き嫌い」で選別しているわけではないということを後に立証できるように、客観的な制度や客観的な労働者に関する資料を保存しておきましょう。

録音すること

録音は必須

退職勧奨においては、必ず録音をしましょう。

対象者が録音をしたいという場合には応じても構いませんが、労働者だけが録音データを持っているということになると、それだけで会社は不利になってしまいます。

裁判などに発展した場合、都合よく編集されたものが証拠として提出されることもあります。

相手は必ず録音していると心得るべし

対象者が録音をしたいと申し出たときにこれを拒否し、対象者がこれを受け入れたからと言って安心しないでください。

以下の私の実際の事例からわかるように、相手の作戦にはまってしまう可能性があります。

今とは違って私が労働者側の代理をやっていた時代の話です。

そのとき私は退職勧奨を受けていた依頼者に2つの録音機材を用意し、録音をして良いか確かめて拒否された場合でももう1つの録音機材により録音することを試みるようにアドバイスしました。

いざ退職勧奨がされる日には、企業側の面談者は、録音することを強く拒否したので、依頼者は机の上に出していた録音機材での録音をしないよう振る舞い、もう1つの録音機材で、録音拒否の言動を含めて全て録音していました。

録音拒否の言動や、企業側の面談者は録音をしていないと思っているから言動にも不適切なものが多々ありました。

そこで、企業側との交渉では、上記の録音があることを告げることにより、こちらに圧倒的に有利な条件で和解が成立することとなりました。


無断録音は証拠となるのか?

よく聞かれることの1つに、無断で録音してもそれは証拠として使えるのか?ということがあります。

現在、以下のように判断した裁判例があります。

「いかなる違法収集証拠もその証拠能力を否定されることはないとすると,私人による違法行為を助長し,法秩序の維持を目的とする裁判制度の趣旨に悖る結果ともなりかねないのであり,民事訴訟における公正性の要請,当事者の信義誠実義務に照らすと,当該証拠の収集の方法及び態様,違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性,当該証拠の訴訟における証拠としての重要性等の諸般の事情を総合考慮し,当該証拠を採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するといえる場合には,例外として,当該違法収集証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である」(東京高判平成28年5月19日

噛み砕いていえば、相手方話者の同意なくして録音されたデータ等は、録音の手段方法が著しく反社会的と認められる場合でなければ証拠能力は否定されないと考えて差し支えないと考えられます。

退職勧奨の場面における録音は、不当な退職勧奨から身を守るためのものですから、基本的に裁判官は証拠能力ありとして、録音を証拠として認めるでしょう。

言動に気をつけること

退職勧奨では、言動に気を付ける必要があります。

侮辱するような発言、キャリアや人格を否定するような発言、退職に応じるよう威圧的に振る舞うなどの行為はしないようにしましょう。

私が実務で経験したよくある失敗例の1つに、適法に解雇できる証拠が完全にあるわけではないのに「解雇しようと思ったらできる」と発言してしまうことがあります。

ご存知のように、日本の労働法における解雇のハードルは高く、退職勧奨を行う時点で、適法に解雇できる証拠が完全にあるということは稀です。

解雇もしくは懲戒解雇事由が存在しないのに、解雇もしくは懲戒解雇になると誤信して行った退職の意思表示を、錯誤に基づくものとして無効とした裁判例や強迫に当たるとして取消した裁判例が10例以上もありますので気をつけましょう(東京高判平成24・10・18労判1065号24頁など多数)。

1回あたり2時間以内とすること

退職勧奨は、1回あたり2時間以内に納めましょう。

明確な基準があるわけではありませんが、どんなに白熱しても2時間を超えるような面談は避けましょう。

長時間行ったこと自体が、不当な心理的威迫を加えたものとして退職勧奨が違法・無効なものとなる可能性が高くなります。

3日から1週間は間隔を空けること

2回以上の退職勧奨行為を行う場合は、少なくとも3日から1週間は間隔を空けましょう。

連日呼び出して退職勧奨を行うと、対象者に考える時間を与えていない、対象者の意向を無視していると判断されて、不当な心理的威迫を加えたものとして退職勧奨が違法・無効なものとなる可能性が高くなります。

弁護士の選び方

退職勧奨に取り組む場合には、退職勧奨の問題の経験を有する弁護士にサポートを求めることが良いでしょう。

そして、かつて労働者側として交渉や裁判をした経験がある弁護士だとなおよいでしょう。

それは、労働者側の戦略がわかるからです。使用者側だけしか扱ったことがない弁護士では、労働者側が考える作戦などの想定が甘くなってしまう場合があります。

初めから、「労働法は労働者に強いので」と言っては、どう負けるかだけを考える弁護士では全く役に立ちません。

スタートビズ法律事務所ができること

弊事務所は、退職勧奨問題について多くの経験があり、それぞれの案件において迅速に有効な戦略立案でサポートさせていただくことが可能です。

また、過去に労働者側として退職勧奨に取り組んだこともあり、退職勧奨の問題に関する実績が豊富です。

Eメール、Chatwork、slackなどご希望の方法で、迅速にいつでもサポートさせていただきます。

スタートビズ法律事務所では、退職勧奨の問題の相談をお受けしております。以下のリンクからのご相談をお待ちしております!

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スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。

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